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店舗が切り開いた未来 ~生活者とブランドの新しい出会い~

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2020年に全世界で大流行した新型コロナウイルス感染症。店舗事業を運営するアイスタイルにも甚大な影響を与えたが、2023年となり、ようやく出口が見えてきた。

この苦境を乗り越え大きな転換点に立っている今、どのような変化を感じ、将来の可能性を見出したか。

取締役副会長 CFOである菅原をモデレーターに迎え、執行の最高責任者である代表取締役社長の遠藤と、リテール事業の責任者である本橋・北尾に、コロナ禍で得られた気づきや経験、そして今後の展望を伺った。

【コロナ禍を経て改めて感じた@cosme STORE(店舗)の価値】

菅原:ようやくコロナの影響が収束してきました。店舗にもお客様が戻ってきましたが、どれくらいの時期から変化を感じましたか?

 

北尾:時期は昨年2022年11月からで、百貨店やドラッグストアなどの他店舗よりも人の戻りが早かったように思います。一部のインバウンドが強かった店舗を除き、既存店はその時点でコロナ前とほぼ同等の売上高となりました。世の中的にはまだコロナ前と比べてマイナス10~20%である事を鑑みても、お客様が「コスメを買いに行こう」となった時に、@cosme STOREを一番のお店として選んでくれているのを体感しています。

 

菅原:来店客数はもちろん、買上率・買上点数なども増えていますね。その背景にある@cosme STOREの価値は何だと思いますか?

 

北尾:昔から変わっていないのは、マスブランドから百貨店に並ぶラグジュアリーブランドまで、ブランドの垣根を超えた体験ができる幅広い品揃えです。そこを軸に、一部ブランドに限定されないカウンセリングや売り場づくり、様々なブランドを試せる仕掛けなどができあがっています。

もう1つは、クチコミサイトを持っているので、他社が真似できない独自性があり、これらを実現できている店舗は我々しかいない。

 

遠藤:コロナ禍で外出ハードルが上がった経験により、楽しいお店で買いたいという生活者の気持ちがさらに高まったと感じています。@cosme STOREの価値は、色んなブランドに出会える楽しさ、普通の店舗では創りにくい新しい商品との出会いを数々提案してきたことであり、改めてコロナが収束した今、それが価値として認められていると思います。

 

菅原:より店舗でしか得られない価値が求められてますね。一方で、美容部員の皆さんの働き方にもいろいろ影響があったかと思いますが、現状はどうでしょうか? 

 

本橋:@cosme STOREの強みはカウンセリング、つまり、その人にあった化粧品との出会いを助けることにもあると考えています。ただ、コロナ禍ではタッチアップができなかったこともあり、どう接客経験を積んでいくかが課題になっています。また、いかにして提供価値を高めていくかを思索する一方で、アイスタイルで働く価値をしっかり確立したうえで、美容部員のキャリアを広げることも考えなくてはいけないと思っています。

その道のプロフェッショナルだけでなく、コロナ禍で生まれたオンラインで活躍する人材もおり、スタートは販売職でも、もっと道は広がるかなと。

 

菅原:ただ技術や知識がないと、特にオンラインでは即興で話すことは難しいですよね。

 

本橋:だからこそ、しっかりスキルを付けてもらうことで、様々なキャリアパスが見えてくると考えています。店舗での経験で、お客様に幅広い提案ができるようになり、それを持っているからこそ幅広いキャリアの道筋や可能性があると思います。

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【復活したインバウンドと、ソーシャルメディアとの可能性】

菅原:どこの店舗も外国の方で溢れていますが、インバウンドの状況はどうでしょうか?

 

北尾:コロナ前のインバウンド比率が店舗売上高の約10%、直近4-6月だと10%と同水準に見えますが、コロナ前に無かった大型旗艦店「@cosme TOKYO」(以下、「原宿店」)を除くとまだ3%と回復しきっていない。中国からの旅行者が少ない状況ですが、コロナ前に比べて明らかに変わったことは買ってる商品と買い方です。今は日本人と同じく、1商品を複数個ではなくプチプラから百貨店商品までと幅広く、お店の中でお買い物を楽しむという感じで、結果として買上点数も高くなっています。

 

遠藤:求めているものが単なる買い物から楽しむ体験にシフトしており、また、その様子をソーシャルメディアに上げてくれて、それを見た色んな人が@cosme STOREの魅力を感じて来店してくれるなど、好循環を生んでいます。

 

本橋:YouTubeの原宿店での爆買い企画動画(※)も、コロナで来店客数が少なく厳しい時期だったからこそ、大きく認知度に貢献してくれましたし、それがきっかけだったと思います。

※インフルエンサーが閉店後の@cosme TOKYOを貸し切って、たくさんお買い物する動画が100本以上公開されている。

 

遠藤:ソーシャルメディアとの親和性が高い店を目指していくなかで、楽しんでもらう店づくりで自然と人が集まり、楽しんだ体験を拡散してもらうことで、それがコンテンツやエンターテインメントとなり、さらに多くの人を呼び込む。このサイクルがとても大切だと、原宿店が成長していく姿を見て感じました。

 

【店舗のこれからの成長戦略】

菅原:次に店舗の成長戦略について、直営店・フランチャイズ・事業譲受などありますが、そのバランスや方向性をどう考えてますか?

 

遠藤:基本は直営店の展開ですが、直近では東京小町さん・Cosmeticsシドニーさんから事業譲受のお話をいただき、親和性が非常に高いと感じてお引き受けしました。フランチャイズでは美スギさんから2店舗目を任せていただき、まだ形が完成していないなか、色々実験的な取り組みを一緒にしてくれる貴重なパートナーです。我々のこれからの出店の形を検証するうえでもすごくありがたい。

 

菅原:事業譲受について、先方からお話を頂いたとのことですが、その背景を教えてください。

 

遠藤:それぞれ店舗運営の在り方や、今後の事業の進め方を考えた末に、アイスタイルリテールに預けるという判断に至ったとのことで、当社を選んだ理由は、教育プログラムが非常に充実しており、その人にあった化粧品をちゃんと届けようという姿勢が共通していたためです。同じ化粧品専門店として大切にしてきたものが同じだったので、信頼していただけました。

 

菅原:直営店の出店についてはどう考えてますか?

 

遠藤:基本的には@cosmeのユーザーが多く存在する地域を考えています。つまり、ECユーザーも多く、より店舗との連携がしやすいのがポイントです。東北・中国・四国などの未開拓エリアもあります。

 

菅原:必ずしも直営店に拘らず、@cosmeのユーザー層が厚いエリアにある強い商業施設に、フランチャイズや事業譲受も視野に入れてフレキシブルに展開していくイメージですね。

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【2店舗目の大型旗艦店が西日本に登場】

菅原:では、9月にオープン予定の「@cosme OSAKA」(以下、大阪店)の狙いについて、教えてください。

 

北尾:まず、なぜ大阪なのか。シンプルに西日本の拠点だからです。化粧品に興味・関心の高い人が多く、JR大阪駅と直結した商業施設ということもあり、海外の方にとっても西日本の玄関口となる。そういった場所に約900㎡の大型旗艦店をオープンします。

 

本橋:もう1つは、メディアとしても原宿店に対するブランドからの需要が非常に強く、大きなイベントや出会いの体験づくりが一極集中しています。地方にも多くのユーザーを抱えるなか、そういった接点を各地に増やしていきたいと思い、今回は大阪になりました。もともと日本5大都市に展開していくという構想があったので、念願が一つ叶った形です。

 

菅原:原宿店のメディア機能としての価値が、他社より一足はやくコロナでの危機から脱却できた大きなポイントの1つと考えています。メディアとリテールの融合がまさに大きくシナジーを生んだ結果だと。原宿店同様、大阪店でも新しいチャレンジに取り組むと聞いていますが、具体的にどんなものがあるのかを教えてください。

 

北尾:1つ目は、次のトレンドとなるブランドの発掘・発信をする「NEXT TRENDゾーン」。原宿店では先行事例として、新興のDtoCブランドがヒットしたり、アジアでも韓国だけでなくタイのブランドが売れたりしています。今売れているブランドではなく、これから売れる・ニュースになりそうなブランドを押し出すことで、新興ブランドが@cosmeでスタートしたいと思ってくれるような仕掛けをつくります。

 

遠藤:ブランドを育てていくインキュベーション的な機能を明確に打ち出していきます。そのなかで継続的なコミュニケーションが自然と生まれるので、長期的なブランドとの交流にも繋がります。

 

北尾:2つ目は、アプリをかざすだけでサンプルが選べて自由に手に取って見れる自動販売機「コスメサンプルスタンド」。無作為に配るのではなく、お客様の意思で選んでもらうことで、楽しい体験となりリピート率が跳ね上がる。ECで既にその実績があり、今回はそれをオフラインで実現します。また、アプリのID識別により、お客様の行動データを個別に追うことができる。これはブランドが最も欲しい情報なので、そのデータを充実・可視化することで、ブランドへの提供価値も高めていきたいと思います。

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【オンライン・オフラインが融合した世界】

菅原:オフラインだけでなく、オンラインで活躍する美容部員など@cosmeのプラットフォームにおけるEC・店舗の連携について、どういった世界観を目指しているか興味があります。

 

本橋:コロナ禍を経てEC・店舗の強みは明確になりました。店舗は出会う体験・回遊できる楽しさなど瞬間的な価値が生まれやすいです。一方で、ECは継続する価値が明らかな強みになっています。そこを意識できているからこそ、リアルの需要が戻ってきたなかでも、きちんとECが成長しているのだと思います。

また、EC・店舗の明確なシナジーとして、店舗で購入後にECで購入してもらうと、購買サイクルが早くなります。店舗だけだと3ヵ月に1回の来店が、ECと併売することで1ヶ月に1度の購買頻度となります。店舗の体験にECの購入機会を加えることでLTVがどんどん上がっていき、さらにECを利用すると店舗への来店頻度が高くなる。この好循環を加速させるために、オンライン・オフラインが自然と繋がる世界を実現していきたいです。

 

遠藤:店舗での購入者がどうしたら自然とECを利用してもらえるか、これを探究していくことが大事で、店舗で買った人が次回はECでリピート購入し、その後はまた楽しみを求めて店舗に行くなどを繰り返していくことが理想ですね。

 

菅原:他社のECによっては、人気のアイテムが1品だけしか買われないうえに、ブランドのファンにならないからリピートにも繋がらないなどもよく聞きます。

 

本橋:@cosmeの強みとして、熱量の高いコスメユーザーが多くいらっしゃいます。@cosmeでブランドと先行商品や限定商品の販売を行うと、ユーザーの皆さんは@cosmeへ一番に駆けつけてくれます。@cosmeで最初に注目を集めると売れるだけでなくクチコミにも繋がるし、人気が出れば結果としてランキングにも載る。その構造をブランドが理解してくれているからこそ、また@cosmeで積極的に活動してくれてます。

 

菅原:その仕組みづくりがECの特別イベント「@cosme BEAUTY DAY」や「@cosme SPECIAL WEEK」の成功にも繋がっていると感じています。

 

本橋:イベントを始めて今年で6年目ですが、何より継続することでユーザーやブランドに定着してきたことが大きいです。昨年からECだけではなく、店舗でもしっかり取り組むことで、お客様の買い方が変わってきました。店舗でスマホを見てコスメを試して、イベントで買う方がお得だったらそっちで買うなど。明確な選択肢としてできあがり、それが圧倒的に増えた結果だと思います。イベントをきっかけにシームレスな体験を創りやすくなりました。

 

【生活者とブランドを繋げるプラットフォームを目指して】

菅原:最後に、店舗をメディアとして活用することが如実に結果として表れています。ブランド向けビジネスとの連携は、今後も注力ポイントでしょうか?

 

北尾:他の小売店と違う点としては、毎月150万人のお客様が店舗にきてくれて、35万人が買ってくれています。言い換えれば115万人のお客様が店舗で何か体験しながらも、買い物をせず帰っていく。この115万人の人達のデータをマネタイズできれば、大きな伸びしろとなります。この数字をポテンシャルとしてブランドに体感してもらうことが重要ですが、この価値をまだ伝えきれていない状況です。

 

遠藤:今では原宿店も単体で黒字化するなど、小売業だけでも十分な利益を生み出すことができるようになりましたが、ただ商品を売っているわけではなく、生活者とブランドとの充実した出会いを如何にして創るかがポイントです。

その出会いに至るまでのプロセスや、エンゲージメント方法、その後の動向を可視化して、ブランド向けビジネスに繋げることが価値となり、強いリテールを持つメディアである我々にしかできないことだと自負しています。今期もこの独自の強みを活かして、さらなる成長を目指していきます。

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